マウスガードによる運動能力、ケガ防止への効果について
マウスガードを着用する理由として、一般的に言われていることは次のよう事柄かと思います。
- 歯の噛み合わせが良くなることから、運動能力が向上する
- 歯だけでなく、脳震盪などのケガの防止に効果がある
今回はこれらのマウスガードを着用した場合に運動能力やケガ防止への効果について考察していきます。
まず、最初の「運動能力の向上」について。いくつかの調査によれば、マウスガードの着用により運動能力が向上したという結果が示されています。実は、この運動能力が向上した、という結果に対しての科学的な理由付けは未だできていないようです。よく言われることとして、「歯の噛み合わせの向上」が顎関節から頸部以下へと身体の固定を発生させ、瞬間的な身体の固定から発生する瞬発的な動作、方向転換を要求される運動には効果がある、というものです。この理由によれば、単調に、継続して運動を行う場合、例えばマラソンやトライアスロンのような競技には向かない、ということになります。このため、どのような運動に対しても効果があるとは言えないのではないでしょうか。
また、歯を噛みしめると力が出る、というのも通説ではありますが根拠は科学的に証明されていないようです。スポーツ選手のなかでも、例えば瞬間的な動きが多いために、マウスガードが有効だと考えられているバスケットのスーパースター、マイケルジョーダンなど、ここぞというときに舌を出しているスター選手は結構存在します。もっとも、マイケルジョーダンの場合には、仕事中に舌を出す癖を持っていた父親を真似ていたら、同じ癖を持ってしまったため、という逸話もありますが。。。
舌を出す選手を肯定する意見としては、緊張と緩和のバランス、トランス状態に入った時に筋肉を弛緩することも必要になるから、というものがあります。「舌を出している」ことが「緩んでいる」こととは一概に言えないかな、とは個人的に思います。というのも、それこそ舌をマイケルジョーダンにように、そこまで出す?というくらい思い切り舌を出してみると分かりますが、首回りの筋肉が非常に緊張した状態になります。是非、試してみてください。
次に、脳震盪などのケガの防止への効果について。2009年の7月17にアメリカにおいて神経学のエキスパートチームが発表したレポートでは、マウスガードによる脳震盪への有効性は証明されていないという見解が示されており、これには選手だけでなく彼らの親も非常に困惑させられました。NHLでも日系人であるKariyaが脳震盪によって選手生命が短くなったことは有名ですが、少し前にも、あのCrosbyが脳震盪によりシーズンを欠場する必要があったなど、大きな問題となっています。引退したMark Messierが脳震盪を減らしたいとCascadeというブランドでヘルメットをリリースしたのもよく知られています。NHLの専属歯科医でもあるBill Blairの声明によれば、そのNHLでも「脳震盪については多くのこと今正に学びだしたところ」なのだそうです。脳震盪への有効性が示される調査結果が出ない中、それでもマウスガードの市場的には「歯を守る」効果を謳うよりも「脳震盪を防ぐ」効果の方が購入者に響くために実しやかに広まってしまっているマウスガードの効果について、先のBill Blairは警笛を鳴らしています。
専門家による有効性を示す研究成果があまりない中で、生理学者のレポートの中にはマウスガードを着用した結果に対し、肺活量の向上に効用が確認されたとされるものがあります。数字的には使用前に対して十数パーセントの向上が見られたとのこと。運動能力の向上に関連した事例ですが、このように経験的に「らしい」とされてきたものへの裏付けが進んでいくのではないかと思います。
脳震盪に関しては「これ」という特効薬、ツールが現状無いが故に、敢えてマウスガードを着用しない、という選択肢も無いのではないでしょうか。子供たちの練習を見ていると、その最中の転倒によって脳震盪を引き起こしてしまった子供を何人も見てきました。やはり試合だけでなく、練習の段階からマウスガードを着用した方がこのようなケガを防げた可能性もあるのでは、と考えます。肺活量に関しては前述のとおりなので、そのトレーニングの意味も加わるはずですから。
参考